飴色。

05.13.


次の日の朝。
今日も委員会だと言って先に出た八戒から遅れて家を出た三蔵の前に。
あの女性が待っていた。
エレベーターを降りたすぐ横に。
壁にもたれるようにして。
ちらりとそちらを向いて、通り過ぎようとした。
すると。
「おはようございます、三蔵さん」
彼女ははっきりとそう言って、少し後ろを同じ速度で歩き出した。
ゆっくりと歩いているとは言っても、ヒールを履いている彼女には少し早い速度だと思っていた。
しかし、彼女はしっかりと距離を保ったままついてくる。
よほど、何かを話したいらしい。
きっと、昨日のことに違いないと思うのだが。
「おはようございます」
三蔵は、そう返した。
少しの間、距離を保ったまま歩いていたのだが。
先に口を開いたのは、三蔵だった。
「何か、私に用でも?」
「はい」
「ほぉ」
彼女に背中を向けていることをいいことに、少しだけ口端を上げた。
そして、そっと歩く速度を落とした。
少しだけ、彼女に付き合うことにする。
「どういう用件で?」
いつもの三蔵の声で、仕事で営業をするような声で。
三蔵は彼女に声をかけた。
「昨日の、駐車場でのアレは、私へ見せつけていたのでしょうか?」
「昨日の?」
駐車場のアレ?
何を言いたいのかはわかっていた。
だけど、少しだけ考えるフリをしてから、三蔵は「ああ」と頷いた。
「キスのことですか?」
「それってっ、それを弟さんと駐車場なんかでしていいことなんですか?」
「弟ではありません」
そう言ったはずですが。
「じゃあ、どういう関係なんですか?」
そう問われて、三蔵は足を止めた。
突然、止まった三蔵に慌てて彼女も足を止めた。
そして、少し上から三蔵は彼女を見下ろす。
「あなたに言う必要はないですよね?」
冷たくそう言うが、彼女もじっと三蔵を睨んだ。
「恋人だとでも言うのですか?」
「その質問にも答える気はありません」
ただ、大切な人だということだけはお答えしましょう。
しばらく彼女は三蔵を見ていたが、あきらめた様子で。
くるりと背中を向けた。
「外での過剰なスキンシップは控えてください」
そういう彼女に、三蔵は小さく頷いた。
背中を向けた彼女には見えていないと思うが。
「わかりました」
忠告、ありがたく受け取ります。
そう言うと、彼女を怒らせてしまったのか。
早足で、三蔵から離れていった。
可愛そうなことをしたのかもしれない。
だけど、譲れなかった。
とても大切な人だから守りたい。
どんな人からも、守りたい。
ただそれだけだった。
彼女の背中姿をしばらく見ていた三蔵も歩き出す。
いつもより、少しだけゆっくりとした速度で。




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